館長コラム
なぜ私たちは、図書館へ行くのか
2026年8月22日
令和8年8月8日、佐賀市立図書館は開館30周年を迎えました。
これまで多くの市民の皆様に親しまれ、本と出会い、学び、憩い、思い思いの時間を過ご
す場として育てていただいたことに、心より感謝申し上げます。
同日に開催した開館30周年記念講演会「なぜ私たちは図書館に行くのか」では、アカデ
ミック・リソース・ガイド㈱の岡本真さんに「図書館の社会的価値と自立運営の可能性」と
題して講演いただきました。講演を通して、改めて「なぜ私たちは図書館に行くのか」を考
える機会となりました。
多くの市民の皆さんが思い浮かべる図書館は、本を読んだり、調べものをしたりする場所
かと思いますが、図書館の機能はそれだけではありません。図書館という空間に身を置くこ
とで、気持ちが落ち着いたり、新しいことを考えたり、人や本との思いがけない出会いがあ
ったりします。
また、図書館を訪れる理由は人それぞれです。本を借りる人、勉強する人、仕事をする人、
誰かと話す人、静かに過ごす人。中には、ただ安心して過ごせる場所を求めて来館する人も
います。誰もが理由を問われることなく、無料で過ごすことのできる「場」であることも、
図書館の大切な価値なのです。
開館30年を迎えた今、施設や設備の更新、デジタル技術の活用、子どもや若い世代の声
を生かした図書館づくりなど、次の時代に向けた歩みも始まっています。
これから予定している大規模改修では、一時的に本館の建物は休館となりますが、図書館
の役割まで止まるわけではありません。分館、分室、自動車図書館、電子図書館に加えて、
地域の施設、県立図書館などとのつながりを生かしながら、市立図書館の活動を地域へ広げ
ていきたいと考えています。
30周年は、これまでの歩みを振り返る節目であると同時に、これからの図書館を考える
出発点です。30年後にも、「この図書館があってよかった」と思っていただけるよう、これ
まで築いていただいた30年を大切に受け継ぎながら、市民の皆様とともに、次の30年を
歩んでいきたいと思います。
ドイツ生まれの木の玩具
2026年8月4日
佐賀市立図書館では、中央ギャラリーやロビーギャラリーを活用し、さまざまな展示を行
っています。その中で、私が特に心を動かされたのが、7月18日から8月9日まで2階中
央ギャラリーで開催している「ドイツ・エルツ地方ザイフェンの木の玩具展」です。
この展示では、約300年前から受け継がれてきたドイツ・エルツ地方ザイフェンの木の
玩具を紹介しています。
夏休みに合わせ、子どもたちにも楽しみながら木の玩具の魅力に触れていただけるよう、
無料で開催しています。展示されている玩具は、所有者である「ターシャ・テューダー絵本
の会」の皆さんが、長年大切に守り、受け継いでこられた貴重なコレクションです。
一つひとつの玩具には、職人の確かな技術やものづくりへの思い、そして世代を超えて大
切にされてきた人々の暮らしが刻まれているように感じました。
ドイツ・エルツ地方のザイフェンは、かつて鉱山の町として栄えました。しかし、鉱山業
の衰退をきっかけに、人々は地域に根付いた木工技術を生かし、玩具づくりへと新たな道を
切り開いていきました。
時代や産業が変化しても、地域の技術や誇りを受け継ぎながら、新しい価値を生み出して
いく人々の歩みは、遠く離れた日本に暮らす私たちにも、大切なことを教えてくれます。
展示には、長い年月を経た木の玩具も並んでいます。時を重ねることで少しずつ色合いを
変えた木肌からは、多くの人々に愛され、大切に受け継がれてきた年月の重みと、木ならで
はの温もりが伝わってきます。
中でも有名なのが、くるみ割り人形です。「ターシャ・テューダー絵本の会」の皆さんか
らは、くるみ割り人形には、当時の職人たちや庶民が抱いていた社会や権力者への思いが込
められていたともいわれていることを伺いました。「せめて自分たちの代わりに固いクルミ
を噛み砕かせよう」という庶民のささやかな抵抗心やユーモアが込められていることを知
り、木の玩具は単なる遊び道具ではなく、人々の暮らしや歴史、文化を今に伝える存在でも
あるのだと、改めて感じました。
日本では、プラスチック製のおもちゃが身近な存在となっています。だからこそ、木のぬ
くもりや手仕事の美しさに触れることで、おもちゃには遊ぶためだけではない価値がある
ことを感じる機会になるのではないでしょうか。
図書館は、本を読むだけの場所ではありません。本や展示、講座などを通して、新しい文
化や歴史、人との出会いが生まれる場所でもあります。一つの展示との出会いが、新たな興
味や学びのきっかけとなり、人生を豊かにすることがあります。
ぜひ、この機会に佐賀市立図書館へお越しいただき、ドイツの小さな村で育まれた木の玩
具が語りかける歴史や文化、そして職人たちの思いに触れていただければと思います。
30年先へつなぐ図書館
2026年7月20日
図書館で仕事をするようになってから、日々さまざまな発見があります。図書館を支えて
くださるボランティアの皆様の活動、司書をはじめ職員一人ひとりが利用者のために工夫
を重ねる姿、そして普段は利用者の皆様の目に触れることのない施設の裏側。知れば知るほ
ど、図書館は多くの人に支えられていることを実感しています。
時には、思いがけない出来事に直面することもあります。
5月の大型連休を前に、カフェのエアコンが故障するという出来事がありました。修理に
は時間がかかる可能性がありましたが、暑くなる前に復旧し、利用者の皆様に大きなご不便
をおかけせずに済んだことに、担当者とともに胸をなで下ろしました。
また、ある朝は駐車場のバリカーポールが下りず、職員総出で対応したこともありました。
利用者の皆様には見えないところでも、図書館では毎日さまざまな出来事が起きています。
こうした出来事は一見すると小さなことですが、日々の業務を通して、施設の老朽化を実
感する場面は少なくありません。
図書館は、本が並ぶ書架や閲覧席だけで成り立っているわけではありません。利用者の皆
様が快適で安全に過ごせる環境は、空調や電気、給排水設備、エレベーターなど、多くの設
備によって支えられています。しかし、その多くは開館以来30年間使い続けられており、
実際に施設を見て回ると、雨漏りや設備の老朽化は想像以上に深刻でした。部分的な修繕だ
けでは対応が難しく、安全に図書館サービスを提供し続けるためには、大規模改修は避けて
通れない課題であると痛感しました。
工事期間中は本館を休館することになりますが、検討中のサテライト窓口をはじめ、7つ
の分館・6つの分室、自動車図書館、電子図書館を最大限活用し、市民の皆様の読書環境を
できる限り維持しながら、図書館サービスを継続してまいります。
今回の改修は、古くなった施設を修繕するだけではありません。安全性や快適性を高める
とともに、これからの時代に求められる機能を備え、30年先も市民に愛される図書館へと
進化させるための「未来への投資」です。
図書館は、市民の知る権利や学びを支える大切な公共施設です。その役割を次の世代へ確
実に引き継ぐためにも、今、この改修に取り組む必要があります。
これからも、市民の皆様とともに、30年先へつながる図書館を育んでいきたいと思います。
